大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ラ)100号 決定

抗告人 秋葉房江こと 秋葉ふさ江

右代理人弁護士 大塚喜一

同 岡部文彦

抗告人 有限会社山喜屋商店

右代表者代表取締役 秋葉昇

右代理人弁護士 渡辺真次

相手方 大原日出夫

右代理人弁護士 平野智嘉義

同 武藤一駿

主文

本件抗告をいずれも却下する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告人らは、「原決定を取消す。本件譲渡命令申立を却下する。手続費用は相手方の負担とする。」との裁判を求め、抗告理由の各要旨は次のとおりである。

(抗告人秋葉ふさ江)

原裁判所は、債務者(抗告人秋葉ふさ江)が第三債務者(抗告人有限会社山喜屋商店)に対して社員として有する持分一六〇口を、債権者(相手方)に二四一万二〇〇〇円で譲渡する旨の決定をしたが、その持分価格の評価は不当である。

(抗告人有限会社山喜屋商店)

有限会社の社員持分の譲渡については、同一会社社員間の譲渡は自由であるが、非社員に持分を譲渡することについては、会社に先買者指定権がある。原決定は、このような有限会社持分の非自由譲渡性に意を払わず、非社員である債権者に譲渡命令を発し、第三債務者である抗告人有限会社の自由と権利を一方的に奪った。有限会社が、自己の関知しない債権者債務者間の事件のために、自らの閉鎖性を奪われることは、許されるべきことでない。

二  そこで先ず、抗告人有限会社山喜屋商店の抗告理由から判断すると、有限会社の社員の持分の自由譲渡性を認めると有限会社の閉鎖性非公開性に反することになることは、同抗告人の所論のとおりであるが、さりとて財産的価値のあるその持分権につき第三者からの強制執行が全く不可能であるとすることもまた妥当を欠くことは、いうまでもない。そしてその間の調整について、かつては種々議論の存したところではあるが、昭和四一年の有限会社法の改正によって、立法的に解決され、同法一九条五項は、社員に非ざる者が会社に対し同人の公売等による持分の取得を会社が承認しないときは所定の手続をもって買受人指定請求権を有していることを規定するが、同時にそれはその前提として、先ず右社員に非ざる者が競売又は公売に因り持分を取得することをも明らかにしているのであって、したがって右持分取得後の段階において、会社はその者の持分取得をそのまま承認するか、或は持分買受人指定制度によって適当な者に更に持分を有償取得せしめるか、この二つの方法のいずれを選ぶかの権能が留保されることによって前述の調整が図られるに至ったのである。したがって、右持分権を民事訴訟法上の強制執行手続によって差押えた上譲渡命令を発することは、いささかも違法ではない。

三  次に、直接本件各抗告に対する関係で記録を検討すると、原裁判所は公認会計士・不動産鑑定士の資格を有する鑑定人秋葉中に対し本件持分の時価の評価を命じ、その鑑定の結果に基づいて譲渡命令を発する等適法な手続を履践していることが認められるから、右譲渡命令は第三債務者である抗告人有限会社山喜屋商店に送達された日(記録上昭和五〇年一月三〇日)にその効力を生じ、かつその効力発生によって債権者の債権は内金二四一万二〇〇〇円について弁済の効力が生じ、したがって同持分権に対する強制執行手続は全部終了したものといわなければならず、その結果右譲渡命令に対してもはや不服申立をすることはできなくなったものである。

すると、本件抗告は、いずれも抗告を申立て得ないにもかかわらず申立てられた不適法なものである。

よって、本件抗告をすべて却下し、抗告費用は抗告人らの負担とし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 舘忠彦 安井章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例